「…あれ、誠くん?」
「え?…ああ!テレンスさん!お久しぶりです。いつも姉がお世話になってます。」
「いえいえ、お世話になってるのは僕達のほうだよ。それにしても珍しいね、こんなところで会うなんて。もしかして恋人が出来たとか…!?」
「はは…残念ながらまだですね…今日はある依頼のモデル探しに来ていて。」
「お祭りの日までお仕事して偉いな…どう?いい人居そう?」
「んー今回、結構大きい企業からの依頼で。ごくごく平凡な一般の方では少しパンチが足りないかも…って悩んでる間に気付けば納期がギリギリになってしまい…」
「だから人が集まるお祭りで大物を狙いに来たってわけだ。」
「正解です。こんだけ華やかなお祭りなら一人くらい居るかなと最後の期待を胸に来たんですけどねぇ…」
「なかなか難しいものだね…」
「…あぁ!誠くん!?それにテレンスさんもいる~!!!珍しい~~!こんばんは~~~!」
「!?びっくりした~…樹里亜ちゃん、お久しぶり。この前事務所で会った以来?」
「そうだよ~あのときは急に呼んだのに対応してくれてありがとね~」
「まあ、姉の命令は絶対だし…またなんかあったらいつでも呼んでいいから」
「はは…無理だけはしないでね。」
「ところでお二人さん、こんなムーディなお祭りの日に何してるんですか?」
「俺はモデル探しだけど…そういえばテレンスさんは?あ、もしかして恋人さんとですか?」
「え!行成さんと来てるんですか!?はい!私会いたいです!」
「ぜひ紹介してあげたいところなんだけど…真っ先にどっか行っちゃってね…」
「結構自由人なんですね。」
「ちょっと目を話すとすぐにね、ちょっと電話してみるから待って」
「はーい!そういや誠くん、今回はどんなモデルさん探してるの?」
「それがね…」
---
「おい~~まだこんなとこに居たのかよ~~~~あ、そっちが事務所の人達?ども~~~!」
「行成、ちゃんと挨拶して」
「はいはい。初めまして、俺は伊豆原行成。職業はメカニカルエンジニア!」
「初めまして~!テレンスさんの事務所でスタイリストやってます、蓮月樹里亜です~!」
「あ!筧の彼女だろ!?うちのエリちゃんと仲良くてよく家に来るんよあいつ、そんでめっちゃ彼女自慢してくる」
「え、そうなんですか…!嬉しいけどちょっと恥ずかしいですね…」
「愛されてていいじゃん~?で、そっちは、玲さんの弟くんだろ?写真みたことある!」
「写真?」
「そうそう。あ、写真っていうのは誠くん撮影の作品って意味もあるけど、玲さんが会う度自慢してくる娘ちゃん写真の端に見切れてるかピンボケしてる姿ね。」
「そ、それはどうも…というか姉がご迷惑をおかけしてすみません…」
「そんなことないぞ!褒めのボキャブラリー多くて聞いてて飽きないし」
「それは褒めてるの…?まあでもいつも楽しそうな玲さんを誰も迷惑なんて思ってないから安心してね。」
「!!!そうだ!行成さんがモデルしたらよくない?一般さんだしオーラも十分あるよ!」
「た、たしかに…!あの、行成さん!今少しお時間ありますか!?」
「いやお祭りエンジョイする気満々だが?」
「あっ!?そうですよね…折角貴重なテレンスさんとの時間を割いてもらうわけにも…」
「いいぞ!良くわかんないけど」
「!?え、いいんですか?よくわかんないのに!?」
「これもお祭りの楽しみの一つだろ!モデルだっけ?写真撮るだけなら全然!いいよな?」
「えっ、ああ。もちろん。」
「よかったね、誠くん!」
「ほんとに!ありがとうございます、助かります!では邪魔にならないところに移動して…俺、場所の撮影許可取ってきます!」
---
「ここに立てばいいんか?」
「はい!ばっちりです!ああ、さすがですね行成さん…ほんとに一般の方ですかってくらいオーラあります!やっぱテレンスさんという大御所の横に並ぶだけありますね…!」
「いや~それほどでも~???あるかもな~?へへっ!」
「いやホントうちのモデルでもやりませんか?!テレンスさんと一緒に撮ったらめちゃくちゃ映えると思うんですよね…!ねぇ、テレンスさんもそう思いません…っ!?」
「……」
「あっ!?え?テレンスさ…ど、どうしま…」
「ハッ!?やっべまじか…!!!!誠くんごめん!!撮影一旦タンマ!!!!ちょっと席外す!!!!すぐ戻るから!!!」
「えっ!?あっ!?はい…!お二人ともお気をつけて…?」
「…行っちゃったね。」
「お、俺…なんかやっちゃった…?ど、どうしよう…」
「あれ、あのテレンスさん見るの初めてだっけ?」
「え?あのって…?」
「テレンスさんってね、行成さんのこと好きすぎてたまにおかしくなっちゃうんだよね~」
「お、おかしく…」
「シンプルに言うと嫉妬?束縛魔なんだって~あの紳士で温厚なのにすごいギャップだよね!」
「想像もつかない…でもあのときの顔すごかった…般若…」
「普段は友人相手にあのモードにならないって聞いたんだけど…最近忙しかったからかなぁ?」
「申し訳ないことしちゃったな…後でちゃんと謝っとかないと…菓子折り持って…」
「あはは、そこまで気にしなくて良いと思うよ?あの2人の日常みたいなものだし。それより誠くんが気にするのはモデルさんのことだと思うけど…」
「ああ…そうだ…何枚か撮ったけど使うわけにもいかないし…はぁ」
「とりあえず気分転換にそこのバーで休憩しない?行成さんもきっと戻ってきてくれるだろうし!他に候補現れるかもだし!こうなったらとことん付き合うよ!」
「樹里亜ちゃん~…ありがと…」
---
「こんだけ人の出入りがあっても、なかなかビッっと来る人が居ないねぇ」
「行成さんも戻ってくる気配無いし…はぁ…納期…」
「うっ…負のオーラが…あ、そうだ。筧くん呼ぼうか?彼配信者と言えど底辺だし一般人みたいなもんじゃない?」
「彼氏相手に案外ばっさり言うね…まあでも彼はテレビ出演してたし、なにより高校生を今から呼び出すわけにも…ねぇ。」
「さすがにまずいか~~~」
「はぁ~~~」
「ふっふっふっ…お困りのようだな、君たち」
「「!?こ、この声は…!?」」
「俺、帰還!」
「「行成さん!?」」
「あれ、テレンスさんは?もう大丈夫なんですか?」
「ああああ…行成さん、先程の軽率な行動、本当に申し訳…」
「タンマタンマ!落ち着け!頭をあげろ!テレンスはちゃんとお説教して祭りに置いてきた!」
「置いて!?」
「反省も兼ねて一人で楽しんでもらっている。ここに居てもまた何かやらかしそうだし」
「(絶対楽しくないだろうな…)」
「それでだ。改めてちゃんとモデルの許可を取ってきた!ほら、撮るぞ!」
「ええ!?いいんですか!?大丈夫なんですか…これがきっかけで喧嘩とか嫌ですよ俺…」
「大丈夫だって!こんなん日常茶飯事だ!俺らのお家芸だと思って気にすんな!逆に謝られるとアイツめっちゃ凹むから謝罪受け入れてやって欲しいくらい。」
「そういうもんなんですか…?」
「そういうもんだ!」
「そうだよ誠くん!折角のチャンスなんだから!気分あげてこ!」
「じゃ、じゃあバーの許可もらってきますんでそのあたりで待っててください…!」
「はいよ~!」
---
「…!はい!お疲れ様でした!すっっごくいい感じです!本当にありがとうございました!」
「ふ~~~~!モデルって初めてやったけどおもしろいな!撮られるのも悪くない!」
「ほんとですか!?ならやっぱうちの事務所に!不定期でもいいですしぜひ専属に…!」
「あはは!今の感じめっちゃ玲さんだなウケる!まさに姉弟だなぁ~!」
「たしかに~!その必死な感じ、筧くんスカウトするときの目と全く一緒だったよ~」
「はっ…!取り乱しました…コホン。本当に今回は引き受けて下さってありがとうございました!おかげでいい作品を上げれそうです…ほんとよかった…」
「離脱さえ無かったらこんな時間までかからなかったよなー…遅くなってごめん!」
「そんなこと気にしないでください!戻って来てくれた時点で万々歳ですから!」
「んじゃ、俺テレンスのところ戻るわ!多分一人だとファンに絡まれて大変なことなってるだろうし!あ!またテレンスからも謝罪させるから~~~~!」
「ああお気になさらず…!テレンスさんによろしくお伝えください!!お疲れ様でした…!」
「さよなら~~~~!いやぁ、行成さん来てよかったね~~~!」
「うん…いやホントよかった。あ!樹里亜ちゃんもこんな時間までありがとう!」
「どういたしまして!これで少しは日頃のお礼が出来たかな!」
「樹里亜ちゃんが行成さん推薦してくれなかったらそもそも今日収穫無かっただろうし、ほんとに助かったよ…」
「それより、行成さんに報酬の話とかしなくてよかったの?」
「あ!!!忘れてた!!!どうしよう!?ちょっと電話…ああでもこれ以上2人の邪魔は…」
「ふふふ、私にいい案があります。耳を貸してみなさい」
「え、何…え?そんなん…って言ったら失礼か…本当にそれだけでいいの…?」
「どんな報酬より満足するだろうし、なんならモデルも継続してくれるんじゃないかな?」
「そんなに!?じゃあ…諸々のお詫びとしてお金と一緒に添えてみるよ。」
「ふふふ~リアクション、あとで教えてね~さて、帰りますか!」
「そうだね。電車もう終わってる時間だし、責任持って家まで送ってあげよう」
「あ、助かる~!お願いしまーす♡」
---
報酬に添えられたもの:誠くん撮影の紫苑撮り下ろし写真(非売品)