ある冬の夜―
「奏麻くんお疲れ様~!わ、今日はお酒がえらい進んでる…!珍しい…!」
「ああ、伊都ちゃんか。お疲れ様。」
「へへ、お隣失礼しま~す!今日お客さんすごかったね~」
「そうなんだよ。紫苑の奴がどっかで宣伝したらしくて…はぁ」
「だからあんなに女性客が多かったのか…紫苑さんのパワー相変わらずだ。」
「あんな奴でもその界隈では売れっ子だからね。本性はともかく…」
「相変わらず仲良しで羨ましい」
「ただの腐れ縁だよ、ウン百年単位のね。」
「ところでさ、奏麻くんは吸血鬼なのになんで血飲まないの?欲しくならないの?」
「ん~?いや、別に欲しくないわけじゃないよ。」
「でも奏麻くんが血飲んでるところここに来てから一回見たことないよ?もしかして伊都の知らないところで…?」
「はは、残念ながら一滴も飲んでないんだなこれが。うーん、なんていうんだろ…」
「?」
「一族の遺伝というか…いや単に昔からそう刷り込まれ続けただけなのかもしれないんだけど、自分が愛した人間の血しか飲めない呪いみたいなのが昔からあるみたいでね。これのせいで適当な人見繕っていざ血を飲もうにも無意識に脳が拒絶して飲めないんだ。」
「へぇ…」
「でも身体的には血の養分を欲しがってるからブラッドパックとかブラッドフルーツでごまかして生存してるって感じ。だから本当は飲みたいけど飲めないのが現状かなぁ。疲れたときとか正直欲しくてたまらないからかなりキツイ。」
「両親とか一族の人はどうしてたの?みんな好きな人がいたの?」
「うん、契約した愛人的な存在がね。純血の子孫を残すためにも夫婦になるのは吸血鬼同士だし。人間と夫婦になるなんて稀だし、だからそもそもの関係も愛人以上のものは結ばないんだ。」
「ふぅん。じゃあさ、伊都を奏麻くんの愛人にしたら万事解決じゃない?」
「あのねぇ…俺の話聞いてた?それに何度も言ってるでしょ。俺と伊都ちゃんとはそういう関係じゃないよ。」
「ちぇ~…なんか今日の奏麻くん、いつもより自分のこと話してくれたからもしかしたらと思ったのに…!」
「そんなに隠してることもないでしょ…」
「隠してるよ!奏麻くんって自分のこと話すの苦手でしょ?知ってるんだからね!」
「うっ…と、ところで最近!あの男の子…燕明くんだっけ、どうなの?仲良くしてる?」
「あ!話題そらした…って燕明くん?なかよしだよ!この前2人でカラオケ行った!」
「へぇ…そっか。」
「え?何?ヤキモチ焼いてくれた!?大丈夫だよ!?伊都は奏麻くんしか…」
「ああ、わかったわかった…それより飲んでるそれ、お酒じゃないよね?」
「違うよ!烏龍茶!」
「…そ、ならいいけど。」
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